溺愛オフィス



私は軽く頭を振り、窓から離れて桜庭さんの向かいのソファに腰を下ろす。

そして、ガラステーブルの上に置かれているクラシックなコーヒーカップを手にとった。


「……桜庭さん」

「ん?」


私の声に、桜庭さんは本を読みながら軽く返事をする。


「このカップ、ウェッジウッドの?」

「ああ。確か」


やっぱり。

以前、雑誌で見て欲しいと思ったやつだから、記憶に残ってたんだよね。

でも、ちょっと高いしと諦めたんだけど……

さすが、桜庭さんだなぁ。


そんな風に思って、コーヒーに口をつけて。

雨と風の音しかしない穏やかな静寂の中、私は……


「ありがとう、ございます」


お礼の言葉を声にした。