溺愛オフィス



窓から見える雨脚はひどくなる一方で、風も強くなり、時折窓に雨粒を叩きつけてくる。


台風が接近してるんだと桜庭さんから聞いたのは、シャワーを借りる前だ。


窓際に立った私は、そっと広いリビングを振り返る。

桜庭さんは足を組んでソファに座り、ファッション雑誌に視線を落としていた。


……桜庭さんは、何も聞かない。

私に何かあったことは多分感じていると思うけど、何も言わずに……

ただ、シャワーと着替えを貸してくれて、冷えた体を温めるようにと、ホットコーヒーを淹れてくれた。

桜庭さんが貸してくれた薄手のパーカーとスウェットのパンツは、私には大き過ぎてぶかぶかで。

だけど、それが何故かドキドキしてくすぐったい。

24歳にもなって、借りた服でこんな気持ちになるのは変、かな?

だけど、私にとって、男の人に服を借りるのは初めてで。

それどころか、シャワーまで借りてしまった。

普段の私なら、戸惑って心の中であたふたしてそうなものだけど、そうでもないのはきっと……


父のことが頭から離れないから。