「⋯⋯なに?その大荷物は。てか仕事はどうした」
「今日はオフだよ〜。あと、これは夏休みの宿題。ほらあと二日で」
バンッ
私は勢いよく戸をしめるとそのまま鍵をかけた。
冗談じゃない。どうせあれだろ。私の宿題うつす気だろ。そんなの絶対に嫌だ。
「莉音ーあーけーてーよー」
ソラの声など無視してリビングにいく。
「さて⋯⋯と⋯⋯」
テーブルの上に山積みになった宿題。
それを見る私の目はきっと「遠い目」になっているだろう。だってなにこれ。なんでこんなにあるの?
まあ宿題を存在ごと忘れ去っていた私も私なのだが⋯⋯
ソラより終わってないかも、なんていう絶望的な考えを振り払うように頭をふる。そんなはずはない。たぶん⋯⋯
「あっ⋯⋯」
唐突に思いついた案。これは、名案かもしれない。
さっそく携帯をとりだしナギにメールをうつ。
〈お時間が空いていましたらファミレスに行来ませんか?〉と。
あと、〈宿題を一緒にやりませんか?旦那様〉と。さすがにやりすぎてバレるかな、と思ったけどそのまま送信。
「だってさあ〜、最近ヨウはピリピリしてて怖いしナギはモモにくっつかれてるしネクはネクで忙しそうだしユータンは頼りにならないし⋯⋯。頼れるの莉音だけなんだよ〜」
インターフォン越しに聞こえてくるソラの声。
⋯⋯まだ諦めてないのね。
ピロロン
数分でナギから返信が返ってくる。
〈OKだよ。駅前のファミレスに十時でいい?〉
そんなメールにホッとする。
私の意図はバレていないらしい。
それかバレているけど黙ってるだけか⋯⋯。
〈了解〉
そう送ってから時計をみる。
今は九時だからもう少ししたらでないとな⋯⋯。
〜ファミレス〜
「えっ?⋯⋯。ナギ、こいつらは?」
そういってSUNNY'Sの面々を見渡す。ソラがニコニコしてこっちを見てくるのがなんだか気の毒だ。
無視したのにこんなに無邪気に微笑まれるとどうすればよいのかわからなくなる。
「みんな宿題終わってなくてさ。ユータ達の学校も同じ教材みたいでね。良かったら莉音のうつさせてもらえないかなあって⋯⋯」
コロン⋯⋯
グラスに入っている氷が溶けておちた音。その音がシーンとした空気に響く。
そこから莉音達の地獄の宿題会が始まった⋯⋯
「ちょっとサルゴリ!私の消しゴム勝手に使わないでよ」
「うっせえな、消しゴムの一つや二つで。ほんとケチくせえ女。んーと、二×九は⋯⋯」
「ぷっ」
「なに笑ってんだ、お前」
「いやあ、高一にもなって小学校レベルのとこで止まってるってやばいなあと思って」
そういう私のおでこにサルゴリからのデコピンがとぶ。
「俺らは十二歳の時にこっちに来たんだよ。で、暫くは勉強もしてなかったしな。実質高校から勉強してんだよ」
「えっ?⋯⋯」
そっか⋯⋯そうだよね。
だから⋯⋯。そう思って私が謝ろうとすると、ネクが険しい表情で
「なにいってるんだ、ユータ。俺達は中学校にもちゃんと通っただろう。それに幼い頃から勉学は王子の嗜みとしてやっていたはずだ。その中で人様に嘘をついてはいけないという教えがあったはずだが?⋯⋯」
「⋯⋯へーい」
そうふてくされて返事をしたユータの手の甲にためらいなくシャーペンを突き刺す私。
普段ならこんなことしてはいけないけど今はいいと思う。というか今すべき行為だと思う。
「いってええええ!!」
本物のサルのような金切り声を出すサルゴリにまたも吹き出してしまう。
「嘘ついた罰。っていうか、今の悲鳴どっからでてんの。くっくくく」
笑いを押し殺すのに必死な私をみてサルゴリが怒鳴ろうとした、そのとき⋯⋯
「うるっさいなあ、もう」
怒鳴るでもなく叫ぶでもなくただ淡々と怒りのこもった声でそういうお方が。恐る恐るそちらを見やると⋯⋯。
イライラした様子のナギさんがいらした。かなりご立腹だ。
普段温厚な分、ユータやネクが怒るのとは訳が違う。すごい迫力に心臓がすくみあがる。ちょうど前だからすごい目が合うし⋯⋯
「少し静かにしてくれない?このままじゃ、宿題が一向に終わらないでしょ」
「知ってます⋯⋯」
そういってシュンとなる私とユータ。
今後なにがあってもナギだけは怒らせないようにしよう⋯⋯。
それからしばらく皆で大人しく宿題を進めていると⋯⋯。
♪君のこと ずっと ずっと 想い続けてて⋯⋯♪
迷惑極まりない大音量の音楽が聞こえてくる。これだから今どきの若者は⋯⋯とおばさんくさいことを思いながら振り向く。すると⋯⋯
「キールくん!?」
「げっ⋯⋯」
そこにはめちゃくちゃ嫌そうな顔をしているキールくんがいた。
手にはスマホ。音源はここらしい。
「なんで君達がそこにいるの?そこ僕のお気に入りの席なんだけど」
お気に入りの席とかこんな小生意気なガキがいっちゃうんだ。なんか可愛いな、と内心おもいつつ分厚いドリルをかかげる。
「これだよ」
キールくんはみるからに呆れた表情になって深くため息をついた。
「おい、キール。なんだよその態度」
そういったのは隣に座るサルで普通に喋ってるだけで声が大きすぎて隣にいる私からするとかなり迷惑だ。
「大声ださないでよ、迷惑」
そういうもキールの態度に腹を立てているユータの耳にその言葉は届いていないらしい。ほんと単細胞。
「ほんと⋯⋯君達バカなの?宿題なんかやってさ」
その完全にバカにした口調に私もムッとしてきた。
その上スマホから大音量で流れる曲も気になる。
時節耳にはいるワードはどれも恋愛系なんだけど、キールくんって案外ラブソングとか聞いちゃう感じなんだろうか。
「そういうキールは宿題終わってるの?」
若干イラついた様子のナギがそういう。
「終わったというか⋯⋯必要ないから捨てたんだよね。」
その場にいた一同が固まる。
なにそのセリフ。一回でいいからキールくんみたいに素面でいってみたいわ。
そんな中、キールくんは店員に声をかけられムスッとしながらスマホの音量を下げていた。
イヤホンすればいいのに⋯⋯。
「キーくん、宿題捨てたの?」
放心状態から立ち直り驚いた表情でそういうソラ。
「当たり前でしょ。僕にはあんなのいらないんだよ。もう高三の内容まで理解してるのに小学校のドリルやらされるとか屈辱でしかないしね。だから」
キールくんがそれを言い終える前に私達六人は恥など忘れて五歳年下の少年に深々と頭をさげた。
「お願いします。勉強教えてください。なんでもします!」
その最後の言葉にキールくんはニヤリと口角をあげた。
「今日はオフだよ〜。あと、これは夏休みの宿題。ほらあと二日で」
バンッ
私は勢いよく戸をしめるとそのまま鍵をかけた。
冗談じゃない。どうせあれだろ。私の宿題うつす気だろ。そんなの絶対に嫌だ。
「莉音ーあーけーてーよー」
ソラの声など無視してリビングにいく。
「さて⋯⋯と⋯⋯」
テーブルの上に山積みになった宿題。
それを見る私の目はきっと「遠い目」になっているだろう。だってなにこれ。なんでこんなにあるの?
まあ宿題を存在ごと忘れ去っていた私も私なのだが⋯⋯
ソラより終わってないかも、なんていう絶望的な考えを振り払うように頭をふる。そんなはずはない。たぶん⋯⋯
「あっ⋯⋯」
唐突に思いついた案。これは、名案かもしれない。
さっそく携帯をとりだしナギにメールをうつ。
〈お時間が空いていましたらファミレスに行来ませんか?〉と。
あと、〈宿題を一緒にやりませんか?旦那様〉と。さすがにやりすぎてバレるかな、と思ったけどそのまま送信。
「だってさあ〜、最近ヨウはピリピリしてて怖いしナギはモモにくっつかれてるしネクはネクで忙しそうだしユータンは頼りにならないし⋯⋯。頼れるの莉音だけなんだよ〜」
インターフォン越しに聞こえてくるソラの声。
⋯⋯まだ諦めてないのね。
ピロロン
数分でナギから返信が返ってくる。
〈OKだよ。駅前のファミレスに十時でいい?〉
そんなメールにホッとする。
私の意図はバレていないらしい。
それかバレているけど黙ってるだけか⋯⋯。
〈了解〉
そう送ってから時計をみる。
今は九時だからもう少ししたらでないとな⋯⋯。
〜ファミレス〜
「えっ?⋯⋯。ナギ、こいつらは?」
そういってSUNNY'Sの面々を見渡す。ソラがニコニコしてこっちを見てくるのがなんだか気の毒だ。
無視したのにこんなに無邪気に微笑まれるとどうすればよいのかわからなくなる。
「みんな宿題終わってなくてさ。ユータ達の学校も同じ教材みたいでね。良かったら莉音のうつさせてもらえないかなあって⋯⋯」
コロン⋯⋯
グラスに入っている氷が溶けておちた音。その音がシーンとした空気に響く。
そこから莉音達の地獄の宿題会が始まった⋯⋯
「ちょっとサルゴリ!私の消しゴム勝手に使わないでよ」
「うっせえな、消しゴムの一つや二つで。ほんとケチくせえ女。んーと、二×九は⋯⋯」
「ぷっ」
「なに笑ってんだ、お前」
「いやあ、高一にもなって小学校レベルのとこで止まってるってやばいなあと思って」
そういう私のおでこにサルゴリからのデコピンがとぶ。
「俺らは十二歳の時にこっちに来たんだよ。で、暫くは勉強もしてなかったしな。実質高校から勉強してんだよ」
「えっ?⋯⋯」
そっか⋯⋯そうだよね。
だから⋯⋯。そう思って私が謝ろうとすると、ネクが険しい表情で
「なにいってるんだ、ユータ。俺達は中学校にもちゃんと通っただろう。それに幼い頃から勉学は王子の嗜みとしてやっていたはずだ。その中で人様に嘘をついてはいけないという教えがあったはずだが?⋯⋯」
「⋯⋯へーい」
そうふてくされて返事をしたユータの手の甲にためらいなくシャーペンを突き刺す私。
普段ならこんなことしてはいけないけど今はいいと思う。というか今すべき行為だと思う。
「いってええええ!!」
本物のサルのような金切り声を出すサルゴリにまたも吹き出してしまう。
「嘘ついた罰。っていうか、今の悲鳴どっからでてんの。くっくくく」
笑いを押し殺すのに必死な私をみてサルゴリが怒鳴ろうとした、そのとき⋯⋯
「うるっさいなあ、もう」
怒鳴るでもなく叫ぶでもなくただ淡々と怒りのこもった声でそういうお方が。恐る恐るそちらを見やると⋯⋯。
イライラした様子のナギさんがいらした。かなりご立腹だ。
普段温厚な分、ユータやネクが怒るのとは訳が違う。すごい迫力に心臓がすくみあがる。ちょうど前だからすごい目が合うし⋯⋯
「少し静かにしてくれない?このままじゃ、宿題が一向に終わらないでしょ」
「知ってます⋯⋯」
そういってシュンとなる私とユータ。
今後なにがあってもナギだけは怒らせないようにしよう⋯⋯。
それからしばらく皆で大人しく宿題を進めていると⋯⋯。
♪君のこと ずっと ずっと 想い続けてて⋯⋯♪
迷惑極まりない大音量の音楽が聞こえてくる。これだから今どきの若者は⋯⋯とおばさんくさいことを思いながら振り向く。すると⋯⋯
「キールくん!?」
「げっ⋯⋯」
そこにはめちゃくちゃ嫌そうな顔をしているキールくんがいた。
手にはスマホ。音源はここらしい。
「なんで君達がそこにいるの?そこ僕のお気に入りの席なんだけど」
お気に入りの席とかこんな小生意気なガキがいっちゃうんだ。なんか可愛いな、と内心おもいつつ分厚いドリルをかかげる。
「これだよ」
キールくんはみるからに呆れた表情になって深くため息をついた。
「おい、キール。なんだよその態度」
そういったのは隣に座るサルで普通に喋ってるだけで声が大きすぎて隣にいる私からするとかなり迷惑だ。
「大声ださないでよ、迷惑」
そういうもキールの態度に腹を立てているユータの耳にその言葉は届いていないらしい。ほんと単細胞。
「ほんと⋯⋯君達バカなの?宿題なんかやってさ」
その完全にバカにした口調に私もムッとしてきた。
その上スマホから大音量で流れる曲も気になる。
時節耳にはいるワードはどれも恋愛系なんだけど、キールくんって案外ラブソングとか聞いちゃう感じなんだろうか。
「そういうキールは宿題終わってるの?」
若干イラついた様子のナギがそういう。
「終わったというか⋯⋯必要ないから捨てたんだよね。」
その場にいた一同が固まる。
なにそのセリフ。一回でいいからキールくんみたいに素面でいってみたいわ。
そんな中、キールくんは店員に声をかけられムスッとしながらスマホの音量を下げていた。
イヤホンすればいいのに⋯⋯。
「キーくん、宿題捨てたの?」
放心状態から立ち直り驚いた表情でそういうソラ。
「当たり前でしょ。僕にはあんなのいらないんだよ。もう高三の内容まで理解してるのに小学校のドリルやらされるとか屈辱でしかないしね。だから」
キールくんがそれを言い終える前に私達六人は恥など忘れて五歳年下の少年に深々と頭をさげた。
「お願いします。勉強教えてください。なんでもします!」
その最後の言葉にキールくんはニヤリと口角をあげた。



