「七未、起きて」
夕方近くになってそっと肩をゆすると、七未はゆっくりと目を開ける。
「ごめん…私、寝てた?」
寝起きの、かすれた少し甘い声。
猫のようにグンと伸びをする姿もまた可愛い。
「お前、2時間も寝てたよ。しかもぐっすり。今日予定ないんだろ?ちょっと付き合え」
七未はわけがわからないという顔をしている。
「どこ行くの?シゲ、デートなんじゃ…」
「いいから。七未が付き合ってくれないと意味がないし」
今日のホワイトデーは七未のため。
いや、違う。
自分の片想いに決着をつけるわけだから、臆病な自分を振り払う、俺自身のため。
七未は化粧を直したいだとか財布を持っていないだとか言っていたけど、そのまま車の助手席に押し込んでしまった。
コートとスマホがあるし、財布は俺が持ってるし平気だろう。
それに俺は七未のすっぴんだって知っているんだし。

