パソコンを叩く手を止めて軽く伸びをした。立原が名古屋に着いてもう2カ月経つ。地方での研修とは名ばかりで、ほぼ雑用だ。
しかし、明日は一時的に東京に帰る。会議に出席するためで、その日のうちに名古屋に戻るが、久々の東京で気は重い。
2カ月前、立原は浅岡に一方的に別れを告げ、駅まで送ってもらった以来連絡を取っていない。離れていて気づいたが、思った以上に浅岡の事を好きだったようだ。6年前と付き合った3カ月程度。ーーーこんなに好きなのに別れようというなんてバカだ。
東京イコール浅岡がいる。という脳で立原は深くため息を吐いた。

「立原さん、大丈夫?なんか飲む?」

確か立原より3つ上の名古屋支局でピカイチモテるらしい笹山浩司(ささやまこうじ)が立原の肩に手を置いた。立原に気があることがわかる分あまり関わりたい人ではない。

「いえ、大丈夫です」

勘違いされるのは本当にごめんなので、全く感情を入れずに鉄壁な無表情で断る。

「立原さんって仕事速いし、美人だって社内でも有名だよ。みんな狙ってるんじゃない?」

あんたが筆頭でしょ。
笹山のコメントには無反応を決め込んで、立原は仕事を再開させ再びパソコンを叩く。