「あー…、それが仕事かもなって。ごめん行けないと思う」
「そっか。涼子は社会人だもんね、お仕事が大事だし頑張って」
「ありがとう。本当にごめんね」

会話が途切れ、沈黙を誤魔化すためお互い飲み物をすする。

「悠くん、あのね」

しばしの空白ののち、ようやく立原が口を開いた。多分、本題だと思うため浅岡も少し姿勢を正す。

「あたし今度出張になったんだ」
「へえ、どこ行くの。この前横浜行ってたよね」

浅岡としては会社員だから出張くらい普通の事だと思うが、立原の顔は暗い。よくわからず、浅岡は顔を覗き込むようにして上目遣いに立原を見た。

「悠くん、ーーー」

✳︎

「別れようか」

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突然の事に声すら出ず、体を乗り出した。なんて言った?別れようか?
折角ほぼ初めて立原から付き合っているといってもらえたのに、…
やはり年下は恋愛対象には見れないことに気づいたのだろうか。浅岡はガンと床に叩きつけられた感覚で痺れる唇でようやく、掠れた声を出した。

「…なんで…?」

このまま泣いてしまいそうな浅岡に気づいたのか立原が少し焦る。

「俺は涼子が好き。別れたくない。なんで?嫌なとこ直すから、ちょっと待って、」
「悠くん!あたし…悠くんのこと嫌いなんじゃない。ーーー好きよ。でも別れよう」
「俺のこと、好き、なのになんで?」

突然の事で、冷静さを失った浅岡に必死に言葉を探す。

「あのね。名古屋に行くの、あたし」
「…横浜よりかは遠いね?でも俺、遠距離でもずっと好きでいられるよ?」
「距離とかじゃなくて…。来年度からあたし少し昇級するらしいの。それでまず地方に送られて研修受けるんだけど、今回はいつもより長いの」