ぱっと手を離して、浅岡は俯き気味に立原を見た。無理矢理連れ出してきた感じで、立原の意見を聞いていなかった事に気付く。

「あ、ごめんなさい、俺勝手に。涼子さんに了承得ずに断っちゃって…。そのっ、俺、涼子さんが取られると思ったら何も考えられなくなって…」

よくわからないまま、とりあえず男らしくなく言い訳を並べる。さすがに立原に嫌われるのは避けたかった。

「悠くん、ーーーありがとう」

しかし、不意打ちで感謝され浅岡は戸惑った。何か感謝されるような事をした覚えは全くない。

「涼子さん?」
「片平さん、…断わってくれたから。ありがとう、助かった」

いつもは凛としている立原が、小さい声で俯いている。

「前の彼氏と別れてからしつこかったの、あの人。先輩だし、邪険にできなくて困ってたから…、本当にありがとう」
「え?じゃああの人涼子さんのストーカー?」
「まあ、予備群かな」

つまり、だいぶ浅岡の勘違いだったようである。立原に年上イケメンと二股されていたと、なんともひどい勘違いだ。

「え?じゃあじゃあ…、」

涼子さんはあの人のこと嫌い…?
そういうことであっているだろうか。そして、

「涼子さん。あの…、俺たちって付き合ってるんですか。俺は涼子さんのこと好きですけど、涼子さんはーーー」

聞いてしまってから後悔する。これの答えが、好きじゃないと帰ってきた時にする返事を考えていなかったのだ。やばい、本当に聴きたくない。

「ねえ悠くん。できればだけど…さっきの方がいいなっていうのはダメ?」
「さっきの?」
「涼子さんって呼ばれるより、年齢とか気にせずに付き合えそうだからーーーじゃ、ダメかしら」

それはつまり、つまり…、

「涼子。っていいんですか?さっきは勢いで行っちゃっただけなんですけど」