キスしたい、と思うのは浅岡だけではなく立原もで、なんとももどかしいカップルだが、お互い何もアクションを起こさず結局今日も勉強は終了した。

「今日はありがとうね。凄く嬉しかった。美味しかったしね」

立原は手を出さないために、最後まで親目線で浅岡を見送る。それに浅岡は気づいているのかいないのか。おそらく気づかず、柔らかく笑い返す。

「じゃあ、おやすみなさい。あっ、明日お仕事は?」
「大丈夫、明日は休みだから。久しぶりの土曜休日よ」
「そっか。ゆっくりするの?」
「どうだろ。まだ何も考えてないから」

おやすみ、ともう一度言い下まで見送る。仕事前日の家庭教師の時は浅岡はだいぶ気をつかってくれるのだ。
もう10時手前だが、浅岡の家は駅を挟んで反対側な為、歩いて10分ほどらしく、立原的には近いと知っていると気持ち安心だ。

「じゃあ、気を付けて」

立原は浅岡に軽く手を上げた。
が、

浅岡に強く手を引かれ、あ、とこけそうになった時軽く唇が触れる。

「…おやすみのキス、です」

付き合って一カ月目にしてようやく初アクションだった。