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「涼子!また逃げるのー!」

友人の抗議の電話を余裕でかわす。合コンブッチ常習犯の立原にとっては、途轍もなく良い言い訳で気持ちがいい。

「ごめん、あたし上司にちょっと残業頼まれてさ。行けなくなった」

事実だが、ズル休みじゃなくもないので口元が緩む。付け足すと、立原は合コンも大嫌いだ。何が楽しくて男と猫被って酒を飲まなくてはいけない、せっかくの酒がまずい。人に数時間気を使うのと、数時間ガキの相手するだったら、高校生の方が何倍もマシだ。高校生に少しは感謝である。

『行けなくなった』なんていい響き。『行きたくない』よりよっぽど人当たりがいい。明るい声音で友人をスルーし電話を切ると立原は立ち上がった。

「あたしのせいでテレビ局就職の選択肢は消えたねえ」

鼻で笑い、配る資料をホチキスで留め待ち合わせの1階ロビーに向かった。先輩たちも苦笑いする、鉄壁の無表情が売りの立原に案内をお願いしたのが不思議なくらいだ。ああ、休みがあたしだけだったからか。