「り、涼子さんっ」

思わず、固まった。ハスキーになっていても誰だかぐらいはわかる。なんで、いるの…?
ゆっくり振り向き、その姿を確認して狼狽えた。今、今!忘れようとしているのに、タイミングの悪い男だ。しかし、最後だと思っていて、若干落ち込んでいた立原もおり正直ほっとしている。
まだ、切れていなかった。まだせめて先輩後輩ではいれている。嬉しいような複雑な感じだ。

「悠くん、どうしたのこんなとこで」
「涼子さんを、待っていて…、その、言いたいことがあって」

絶句する。高校生たちを見送ったのは30分以上前だ。秋口とはいえ、だいぶ待っていたようで、驚く。

「言えばよかったのに、そしたら普通に帰ったし。遅くなると親御さんも心配されるでしょう」

あくまで、大人として対応する。プライベートで接してしまうと勢いで好きと言ってしまいそうなのだ。

「家は、大丈夫です。本当は今日帰りにみんなで食べて帰る予定だったので。ただ、涼子さんに言ってないことがあったので俺が勝手に待ってただけで、だから大丈夫です」
「そう、でも…じゃあ今帰っても親御さんごはん用意してないんじゃない?食べて帰ると思ってるんでしょ」

しばしの沈黙の後、立原はそっと続けた。

「…ウチ今何もないけど、来る?話、あるんでしょう。先にスーパー寄るけどいいね」

一方的に言うと、浅岡が答える前に、腕を掴み駅に向かって歩き出す。魔が差しただけだ。深い意味はなくて、ただ一時の気の迷いだ、と自分に言い聞かせながら立原は浅岡の顔も反応も見らずに電車に乗り込んだ。