20分ほど電車で揺られたところで、浅岡は少し屈んで立原の耳元に息を吹きかけた。

「次で降りまーす」
「ばかっ」

そんな事務的な内容をわざと甘く言うものだから、一瞬ドキっときた事に恥ずかしくて必然的に上目遣いになりながら浅岡を睨んだ。

「ほら、涼子」

目的地の駅に着くと下車する際に浅岡は立原より先に降りて、手を差し出した。こういうことを浅岡は無意識にやってのける為、慣れない立原は少し滅入る。しかし嬉しくないわけでは決してないので、恥ずかしながらもそっと浅岡の手に自分のを重ねた。
そのまま手を繋ぎ、ゆっくり歩き出す。9歳も離れているのにそれを感じさせないほどの浅岡の大人な横顔に見惚れた。

浅岡の方も本当は余裕なく、しかし立原に年上ということで遠慮されない為に、精一杯背伸びをしている。それに立原は気づいておらず、また、そのお陰で年で気が引ける事は無かったので、浅岡は結果オーライだろう。

浅岡のモロ好みのマキシ丈キュロットが歩く度ふわりと揺れる。紺色で落ち着いた色がまた立原に合っていて、待ち合わせの駅で立原を見つけた時からドキドキが止まらない。好きなのにまた好きになってしまうくらいだった。