9歳差は、アリですか?

立原は意を決した。
ある意味虫除けになるだろう。

「先輩、あたし一年弱付き合ってる彼氏いますよ?」

声が震えないように、しかしなんでもないかのように言い切った。途端にスッとなる。驚いたのか目を大きく見開いた先輩は立原を凝視した。

「まじで?」
「…そんなに驚きますか」
「いや、だって、ーーー今日柔らかくて明るいのはその彼氏のせい?」
「明日デートなんです。そりゃあ嬉しいですけど、」
「意外意外意外過ぎる!彼氏一人でお前がこんなに変わるなんて。⁉︎ていうかそもそもそんな前からいたの⁉︎」

エレベーターの中で一人騒ぐ先輩を立原はだいぶ冷ややかな目で見て、地上に着くなりさっさと先輩を置いて歩き出した。やはり言わない方が良かっただろうか。うるさい事この上ない。

「先輩うるさいです。あまり酷いと置いていきますよ」

いつも通り鉄壁な無表情で、低く言い放つと、流石にびびったのか先輩はおとなしく付いてきた。
恐らく夕方までにはもう広がっているだろうが、しかしまあいいかと、立原はカミングアウトについては放置を決め込んだ。これで立原に告白してくる人もいなくなるだろう。断る体力の消耗を未然に防ぐことができる。
明日のデートの為に、今日の帰りにパーマをかける毛先にそっと触れながら、立原はなぜだか嬉しくなり、周りに分からない程度微笑んだ。