仕事が終わり立原は自宅のドアノブをそっと捻った。予想通りすんなり開く。

「ただいま」

いい匂いがする。甘辛い香りだ。

「あ、涼子おかえり。もうすぐできるからね」

台所から、好きな人の声が聞こえる。最近は仕事が遅い日は浅岡がよく夕飯を作りに来てくれるのだ。まだ教えたものしか作れないが、段々腕が上がってきて、立原が付きっ切りでなくても料理が出来るようになってきた。

「悠、ありがとう。遅くまでごめんね」

荷物を置いて着替えてから台所を覗く。今日は照り焼きのようだ。

「いい匂い、美味しそう」

立原は何気なく浅岡に近づき、浅岡の方が背が高いので、その肩に顎を乗せフライパンを覗き込む。

「ちょっと涼子!待って、緊張するから!」
「えー、なんで。悠最近どんどん上手くなってるでしょ?」
「そうじゃなくて、」

ああもう、そういうたまに出す可愛い感じとかがダメって意味なんだけど。という浅岡の内心を知らず、立原はますますからかうために浅岡の腰に腕を回した。

「ちょっ、涼子!ダメだって、そういう意味じゃなくて!」

立原は料理の邪魔をしているだけだが、浅岡は彼女として意識していて、別の意味で焦っていた。