「でも、課長昨日っ…」
「ああ、好きって抱きしめたやつ?」

笹山は何でもないかのように爽やかに笑った。

「全然?立原さんのこと好きじゃないよ。いやー、ハルカはわかんないよねホント。君のどこがいいのかさっぱりだよ」

だいぶ失礼な事を言っている気がする。どこがいいのかさっぱり、なんて思ってはいても少なくとも本人の前では言わないだろう。

「結構失礼ですね」
「だってそうだろう?愛想もクソも無くて、無表情だし、普通の男より遥かに仕事はできるし。進んで付き合いたい相手では無いよね。それに俺はもっと女の子らしくて守ってあげたくなるような子が好みだし、俺の演技力は凄いけど立原さんは俺の中で範ちゅう外、って事で昨日のことに関してはお構いなく」
「お構いなくって…、ーーーじゃあなんであんな事。あたし不快な思いしたんですけど」
「嘘ー、こんなイケメンに抱きしめられて不快?」

立原は思わず笹山をきつく睨んだ。本当に最低、しかもキャラを猫かぶっていたあたりも腹が立つ。お見通し、という感じで上手を取られた気分だ。

「ちょっとねからかいたくて。ハルカの事立原さんは好きなのかなって試してみたくて」
「際ッ低、試すとかそう言うの」
「だから謝るって言ったじゃん」

三十路の落ち着き方ではない。唇を尖らして、拗ねている。当てにしない方が賢明だと立原はため息を吐いた。