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『コウちゃんっ』

電話越しに盛大に泣く浅岡に、笹山浩司は苦笑した。今隣いるけど、とはあえて言わない。横目で笹山は一緒に新幹線待ちする立原を見た。

「どうした?」
『さっき、見たの。涼子を俺駅で見たの!東京に帰ってきてたの!』
「そうか、よかったじゃないか」

笑いを堪えるのに必死だ。

「で?俺にこんな時間に電話したって事はなんかあったの?」
『涼子、駅のカフェで誰かに迎えに来てもらってたの、さっき!でも絶対俺の方がいい男だった!なんでえッ、俺こんなに涼子の事好きなのに、ずっとかたおもいなのおっ』

漏れているんじゃないかと思う程の声量と泣き声だ。ここまで酷いのは初めてだ、よっぽど傷付いたのだろう。
まあ、それ俺なんだけど。と言ってしまえば面白くないから、慰める振りをする。おそらく、浅岡は立原しか視界に入っておらず笹山だと気づかないくらい、切羽詰まったのだろう。
若い、面白い。
ちらりと立原の方を再び見る。そして昨夜の立原の言ったことを思い出した。