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梅雨入りをした世界は、濁った灰色をしていた。
煙草の煙を凝縮したような色の雲が、空一面に広がる。
これで、臭いまで煙草だったら最悪だと思った。


「あちー」


片手に傘、反対の手に小ぶりの団扇を持って、俺は帰路についていた。
肩掛けの鞄にして本当によかった。
じゃないと、両手に一つずつ持つことはできなかったから。

湿気と闘いながら、駅を目指す。
メールで、「今日は時間が合わないかも」と彼女が言っていたので、「着いたら30分だけ待つ」と返事をした。

駅前のエントランスの階段で、濡れていない隅を探し、腰を下ろす。
上を見上げると、やはり空は表情を変えてなくて、視界に入る自分の前髪をうっとうしく感じた。


「……16時42分」


携帯で時間を確認。
30分間、彼女を待つ。


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