会場の外には大きな庭があり、噴水やら植木やらが綺麗に配置されていた。
あたりは既に真っ暗で、植木に付けられたイルミネーションが輝いている。
「よっこらせっと。」
噴水の淵に腰掛けて、靴を脱いでみる。
「あー……こりゃぁ痛いわ」
足の小指が真っ赤になっていた。要は靴擦れ。
パーティーということもあってそれなりの服とか着てみたが、どうやらやっぱり窮屈で向かない。
「絆創膏なんて持ってるわけねーし………どうすっかなー………」
とりあえず冷やしてみようと噴水に足を突っ込んでみる。
パシャパシャと響く水音が耳に心地いい。
「おい。」
不意に声をかけられ後ろを振り向くと、背の高い男のシルエットが見えた。周りが暗いせいで男の顔が見えない
「こんなところで何してんだ。参加しねーのか?」
随分馴れ馴れしいな。つーか日本人だ。父さんの会社の人かなー……。
段々シルエットがこちらに近づいてくる。
「いえ、十分ご飯食べたし、もう目的果たしたんで。」
「飯目当てかよ。」
「それ以外無いでしょう。」
男が私の隣に腰掛けた。
やっと明らかになった男の顔は、思ったより若い……って私と同じくらいじゃね?
「それ以外って……お前、このパーティーの目的知らないで来たのか?」
「目的…?」
「そ。楠木財閥の息子の婚約披露宴。」
「ふーん……いや、知らんし。関係なくね?」
「まぁな。でもその息子は相手の女と結婚する気ねーから逃げまくってっけど。」
「何、あんた知り合いなの?」
「……まー、そんなとこだ。」
なんだかバツが悪そうに男が言葉を濁した。
「ふーん?………つーかそいつも頭わりぃな。」
「………あぁ?」
「逃げてても始まらねぇよ。なんならぶち壊しちゃえばいいのに。」
「ぶち壊す?」
「ま、適当に言っただけだけど。」
なんとなく勢い余って噴水の中に両足突っ込んだまま立ち上がった。
「やりたいことやりゃぁいいんだよ。」
それだけ男に伝えて、私は噴水から出てそのまま靴を履いた。
………タオルなんか持ってねー。履き心地最悪だわー。頭わりぃの私だわー……。
「………それもそうだな。逃げるとか俺らしくねーわ。」
「ん?」
ボソりと呟かれた言葉が聞き取れず、男の方に向き直ると、男はどこか強気な顔をしていた。
「お前、名前は?」
「春瀬凛海。あんたは?」
「楠木 時雨だ。」
「ふーん。くすの………楠木!?」
嫌な予感がする。
あれ、さっき私随分偉そーなこと言ったよなー………
頭わりぃとか、言ったよなー……
「そっかー、楠木サンかー、覚えておくねさようなら」
猛ダッシュしようと回れ右して…………そう簡単にいくわけ無かった。
「逃がさねぇよ?凛海。」
腰に楠木サンの腕が回り、抱えられる。
こ、これは世にいうお姫様だっこ……………
などではなく、
人はそれを俵担ぎと言う。
「え、ちょ、悪かったって!!ごめんなさい!!ウソだから!ホント嘘だから!離せぇーーっ!!」
手足をばたつかせてみるが、意外と力持ちなのかびくともしない。
「離すわけねーだろ。凛海の言う通りやりたいようにやらせてもらうから。」
覚悟しとけ、と言い悪人ヅラをして歩き出した楠木サンに血の気が引いた。
