「ただいま~。」

誰も居ない暗く冷たい家に疲れ切った彼女の声が響き渡る

彼女が家に着いたのは午後7時を過ぎていた。

理由は簡単、音楽祭に向けての練習だ

最初、彼女は防音室のある自分の家に来て練習すればいいと言ったが

麗音は全力で断った。

「何で??家も近いんだからそっちの方がいいでしょ?」

「ダメですって!!」

「どうせ陽が落ちるまで終わらないんでしょ?」

「それはそうですけど僕は男ですよ!?」

「そんなの見たらわかるけど…??」

「そんなに無防備だといつか襲われますよ!?」

「通り魔とかに??」

「保健の教科書読んできてください。」

こんな調子で結局は音楽室で練習することが決まり練習が始まる

しかし、彼女は伴奏の依頼を受けた際にある事に気が付いていなかった。

「そういえば何を演奏するの??」

「愛の悲しみです。」

「悲しみね…」

「どうかしましたか??」

「いいえ。まだやりやすい曲かなって思っただけ。」

「では張り切って行きましょう!」

「おー!」

彼女は愛の悲しみを、母が泣きながら弾いていた曲だと覚えていた

何故泣いているのかを尋ねたことがあるが、母は何も答えてくれなかった。

その事があってから母は愛の悲しみをひかなくなる

言わば渚にとっては曰く付きの曲なのだ。