「九重先輩!!僕の伴奏者になってください!!」

家の敷地を出て一歩目、彼が現れた

「ごめん、誰??」

話したことも無い青年に呼び止められたのだから怪訝に思っても仕方ないだろう

「失礼しました!!僕は四葉学園中等部2年の鈴木麗音です!」

鈴木麗音と名乗る可愛らしい青年は笑顔で答えた

「私、誰かの伴奏とかしたことないから他をあたったほうがいいと思うけど。」

彼女の記憶の中での彼は周りからの信頼も厚く、ヴァイオリンの腕前もプロ並だったはずだ。

「僕は先輩のピアノに惚れたんです!!なので先輩に音楽祭のピアノ伴奏を頼みたいんです!」

何だよコイツと言いたげな目を彼に向けながら彼女は歩き始めた。

「え!?ちょ、渚先輩!?」

いつの間にか九重先輩が渚先輩になっているがそんな事はどうでも良かった

彼女の頭にある思いはただ一つ、コイツは危ないやつだ。ただそれだけだったのだから。

「伴奏の件、受けていただけますかー!!」

「お断りします!!」

彼女は自分で言っていた通り、誰の伴奏もしたことがない。

毎年毎年、音楽祭の伴奏を頼まれるが全て断っている

人と関わるのが怖いのだ、

また大事な人を失うのが怖くて怖くて仕方がない彼女は、伴奏どころか友達さえ作らない。

彼女が「孤独なピアニスト」と言われる由来だ

「先輩と僕が組めば最強ですって!!」

「音楽に最強も最弱も無いでしょ!!」

普段ならお断りしますの一言で皆引き下がるのに対し彼は執拗に追い掛け回した。

それは学園についてからもだった

「渚先輩!!」

「何で中等部のあなたが高等部にいるのよ!!」

ドア付近で広げられる叫び合いにクラスは驚きを隠せなかった

「九重さんってあんな顔するんだ…。」

「叫んでるところ始めてみたかも…。」

「俺すっげータイプかも…。」

「貴方それ誰にでも言ってるでしょ。」

「すいませんでした。」

「分かればよし。」

おかしな会話を始めている者もいたがそこは気にしなくていいだろう。

「伴奏は渚先輩にしてもらいたいんです!!」

「何度も言ってるけどお断りします!!」

「何故ですか!!」

「人と関わるのが怖いからよ!!これで十分!?」

クラスは一瞬にして静まり返った

理由は彼女の悲鳴混じりの叫び声だ。

最愛の両親をなくした彼女にとって、

最も恐ろしいことを理解したのだ。