「ほら」

「ありがとう」


険しい山道の足場が悪い場所を雷牙の手を借りながら進んでいく。

今、花音は雷牙と宝珠があるという山へと来ていた。

花音より少し前を歩く雷牙を見ながら、花音は謁見の間での王妃の言葉を思い出す。


『雷牙には養子だということを隠していたのだけど、十年前メイド達が話していたのを聞いてしまったらしくてそれ以降、よそよそしくなってしまったの』


「あのさ、雷牙くん」

「ん?」

「雷牙くんは王様と王妃様のこと、もう両親だと思ってないの?」


その言葉にピタリと雷牙の足が止まる。

ゆっくりと振り返ったその表情は硬かった。


「・・・お前、それ」

「ごめん。謁見の間で聞いてから気になってて」


そう答えると雷牙は溜め息をついた。


「・・・俺は本当の両親を知らない。でも、王族でないのは確かなんだ。・・・知ってしまった以上、何処の者かもわからない俺が気安く呼ぶことは出来ない」

「でも、雷牙くんは今まで王族として働いてたんでしょ。血の繋がりのないことで何か言う人はいたかもしれないけど、自分のするべきことをきちんとやってきたんだもん。自信を持っていいんだよ」

「花音・・・」

「血の繋がりも大事かもしれないけど、それだけじゃないと思うよ。何より王様と王妃様は雷牙くんが距離をおいているのが寂しそうだった。きっと小さかった時みたいに親だと呼んでほしいんだよ」

「・・・」


花音がそう言うと、雷牙は何かを考えているようだった。