ガラリと教室の扉を開ければ、







いくつにも重なって聞こえる喋り声。







甲高い声で笑いを上げる女子達。







ぎゃあぎゃあとふざけ合う男子達。







そんな彼らとは比較的小さい声で話す私らにとって、







どちらにせようるさいことに変わりない。







騒がしい教室内。







そんな場所に人気者がきたらどうなるか?







「はぁっ、はぁっ……はぁ〜っ

2人共っ、歩くの早いよぉ」







「そんなこと無いって。

花牧が遅いだけでしょ。ってか遅すぎ…」







柚子と甘の喋り声を掻き消すような、







─「花牧くん、おはよう!」







─「花牧、はよー!」







─「甘くーん!おはよー!」







「うるっさ…」







大音量に包まれます。







「はぁっ…っはぁ……ふぅ。

…みんな、おはようっ」







息を整えた後、本日(恐らく)二度目の







最っ高に甘ったるい笑顔。







「…本当、甘ったるい」







甘から逃げるように、足早に席についた。






「ははっ、朝から大変やなー」








前から甘よりも低い、けれど楽観的な声が耳に通る。







「…それ、誰のこと言ってんの?」







「んー?

…誰のことやと思う?」







──"広瀬 忠義"(ひろせ ちゅうぎ) 。







新学期からの大阪から来た転入生で、私達より1つ年上の男子。







健康そうな顔してるけど、広瀬は生まれつき体が弱いらしい。







去年は持ち前の喘息がピークを迎えてたらしく、







1年の半分以上、入院していたんだとか。







半分以上も入院していたら、そりゃあ補修を受けても







出席日数は足りないわけで。







留年したら元の学校には居づらいだろうっていう







広瀬の両親の考えで、私らの高校に転入してきたらしい。







去年ゆっくりと休んだからか、今は全然健康らしいが。







「…広瀬もあの中に入ってくれば?」







「いやー冗談キツイなぁ。

あそこいったらめっちゃしんどそうやわ」







けらけらと冗談めかして笑う。







「あ、そや」




 


「何?」




 


「おはよう、高松」






ニッと笑い、関西弁のイントネーションで朝の挨拶をしてきた。








「…今かよ」







「あはは。そういや言うてへんなーって」







「…おはよ」







広瀬は少し、ズレているっぽい。