あいつはゆっくりとこちらを見た。頼人は驚愕したが、あいつの無事を見て安堵した。そして、血だらけの男を一瞥していたとき、グサッという鈍い音がした。生温い鮮血が飛び散った。
「刺された」頼人は反射的にそう思った。「刺したのは誰だ?」その疑問は、自分に刺さる包丁の先を見ればすぐに晴れた。
あのとき、包丁をもっていた人物。そう、視界に捉えたのは狂乱し我を失ったあいつの姿だった。
体の力が抜ける。頼人はその場に倒れこんだ。あいつは頼人に馬乗りになる。そして、包丁を天高く振り上げた。