婆「アメリアや、」
ア「なあに?お婆ちゃん?」
婆「アメリアはあそこにある星が見えるかいな?」
ア「いっぱいあって綺麗。でもお婆ちゃんが言っている星がどれかは解らないかな」
そう言うとお婆ちゃんは指を指して告げた。
婆「あそこにある星はアルタイルと言ってね。白鳥座と隣り合わせに並び、夏になると綺麗な三角形をつくるんじゃよ。」
ア「お星様が三角形に並ぶの?」
婆「そうじゃよ。その三角形は離れることなく、ずっとこの星に住む多くの人々を明るく照らし、今日まであるんじゃよ。」
ア「良く解らないけど、あのお星様達は仲が良いのね!」
静かな草原に響く少女の元気な声。
お婆ちゃんは静かに微笑み頷いた。
ア「でもお婆ちゃん。アメリアね、お友達がいないんだ ・・・あのお星様達みたいに、ずっといたいって思えるお友達、アメリアにもできるかな?」
婆「できるともさアメリア、アメリアは良い子なんだから。ずっと良い子にしてたら、アメリアを好きになってくれる友達は直ぐにできるさね」
ア「本当に‼︎ じゃあアメリアね、仲の良いお友達ができたら! 一番最初にお婆ちゃんに見せるから! その時はお婆ちゃんが作ったアップルパイ皆にも作ってほしいな」
婆「そうじゃね、その時はお婆ちゃんのとっておきのアップルパイ皆で食べようね」
ア「うん!約束だよお婆ちゃん!」
たわいのない少女と老婆の会話。
この二人の約束も、夜に輝く三角のように、永遠に残るのだろうか。

ー3年後ー
アメリア12歳。
婆「おかえりなさいアメリア。大好きなアップルパイ出来てるよ」
ア「ありがとうお婆ちゃん。」
好物を前にしてどこか浮かれない表情のアメリアを見てお婆ちゃんがどうしたの?と聞く。
ア「今日学校からの帰り道ね。町の役場の前を通ったの・・・」
たんたんと見たこと聞いたことを語るアメリア
ア「町の大人の人達が集まっててね、凄く大きな声でね、町の外の魔女を退治するって叫んでたの」
次第に震えだす声。
ア「お婆ちゃんは、ころされたりしないよね!? だってお婆ちゃんは町の皆の病気を治せるお医者さんだから大丈夫だよね!?」
目にいっぱいの涙を浮かべながら、泣くのを堪えるその姿を見て。お婆ちゃんはアメリアの肩に手をのせた
婆「大丈夫じゃよアメリア。この村の人達は魔女じゃない、皆良い人ばかりさね。誰も殺されることはないんだよ。 それに、お婆ちゃんが死んだら、病気を治せなくていろんな人が困ってしまうだろう、だから、この村の人達は誰も殺されたりなんかしないし。お婆ちゃんも殺されたりしないから、お婆ちゃんのアップルパイ食べて元気をおだし?」

一分程の沈黙。
ア「うん・・・お婆ちゃんの美味しいアップルパイ食べて元気になるね!」

ー1週間後ー
家に帰ると、お婆ちゃんは家の前で誰かと話していた。

相手の男性と思われる人は時々大きな声を出して、手を振り上げている。
物心着いて来てしまった私にはそれがなんであるかが解ってしまう。

お婆ちゃんは幸いにも暴力は振るわれなかったが、町から供給される食料をカットされることになった。

それでも、かつてお婆ちゃんにお世話になった患者の人達は、慰謝料代わりに食料を持ってきてくれた。

だがそれも束の間で、次第に患者も来なくなった。

お婆ちゃんは見る見るうちに老け、痩せて。自分じゃ治せない病気を患いながらも。
私を支えてくれている。

少ない食料で、私にお婆ちゃん直伝のアップルパイの作り方を教えてくれる。

少しの食料で作る大切な料理なのに失敗してもお婆ちゃんは
「大丈夫。次はここをこうしていこうね」と優しく笑いかけてくれた。

ー3ヶ月後ー
底を尽きかけた食料でやっと上手くアップルパイを作ることが出来た。

その出来栄えにお婆ちゃんも目を丸くし、今までに無い程の笑顔で食べるのが楽しみだと言ってくれた。

ア「出来たてで熱いから、お昼食べたら一緒に夕方まで紅茶飲みながら食べようね!」
婆「アメリアちゃんの頑張って作ったアップルパイ、お婆ちゃん食べれるなんて幸せだ」

すっかりやつれかけた笑顔に、涙がでそうになったが。

今のこの懐かしいような幸せな時間が、これからも続きますようにとアメリアは祈っていた。

ー昼ー
お婆ちゃんから一冊の本を渡された。お婆ちゃんが研究してきた病気を治す薬の作り方や人を幸せにする薬の作り方。

とても大切な物を、お婆ちゃんは私に渡し。

婆「これから先アメリアちゃんが大人になった時、お婆ちゃんよりももっと大勢の人の病気を治してあげるんだよ。」

真剣な眼差しなのに優しい目。
温もりのある言葉。

その時が近いのかと。まだ小さい私なりに気づいてしまった。

ー午後13時ー
お婆ちゃんと最後に交わすティータイムかもしれないと、焦りを感じながら、アップルパイを出し準備をしていて窓の外を見て言葉を失った。

ついにその時はやってきたのだ。
多くの町人が縄や農具、中には斧や大きな刃物を持った巨漢が集まり。
その後ろには大きな荷車が数台。
何に使うのか知りたくも無いし、見たくも無い。

一刻も早くこの場から逃げなければとお婆ちゃんの元へ駆け寄るが。

お婆ちゃんは動こうとしない。

このままでは殺されてしまう!と腕を引っ張っても、お婆ちゃんは動いてくれない。

パァーと村に響くラッパの音。
一斉に村の家々に雪崩れ込む人人人

聞こえてくる断末、叫び、泣き声。

村の広場に連れて行かれる村の人。

焦って家を出ようとした時に玄関の前に立つお婆ちゃん。

今までに無い穏やかな表情で。
婆「生きなさい」
そう呟いた直後
バン‼︎‼︎
扉が勢い良く開き、知らない人が立っていた。
「この家に住む罪人は出てこい‼︎‼︎」

意味の解らない強い口調。
恐怖のあまり何も言えず腰が抜けた

だがこのまま何も言わなかったら二人とも死んでしまう・・・

無言で前に出るお婆ちゃん。

乱暴に男達に取り押さえられ、縄で縛られ広場へと連れて行かれた。

私はと言うもの、何も出来ないまま行く末を見ているしかなかった。

このままでは嫌だと、急いで後を追った。

村のあちこちに散らばる人、一昨日まで笑っていた近所のおじさんの顔、焼け崩れる家々。

村の広場は、地獄だった。

荷車から出てきていたのは、ギロチン。村の住人は足と腕を縛られ、目隠しをされ、ギロチンの前で整列されていた。

自由も無く、意思も無く、尊厳も無く。処刑は繰り返される。

耳に残る段末、鼻につく激臭。

目に余る無惨な光景。

夕暮れが照らす丘の広場。

ギロチンは多くの人の首を離脱させ、ついに刃がいかれ使えなくなった。

囚われて残った村民は十人。

お婆ちゃんもその十人の一人だった。ギロチンが解体され、この残った人達は助かるのかと思っていたが。

私が思っていたより、彼等はおかしかった。

広場中央に集められる村民、数人の男が手にしていたのは、油のついたたいまつで、ためらうことなく火は点けられた。

投げつけられ足元から燃え火が全身に周り叫び始める人。

生きたまま焼かれる人間は、こんなにも暴れるのか・・・

お婆ちゃんも、こんな死に方望んでいないのに・・・・

言葉に出来ない思いが堪えられず。

やめてと叫んだ。
声が枯れるまで叫んだ。

だが一行に火は消えない。

私の声に気づいたのか。
お婆ちゃんは確かにこっちを向いて、優しく微笑んだ・・・・

あっという間に火は燃え広がり。

その面影は一瞬にして消えてしまった。

それから一週間、私は泣き続けていた。

そんな時に現れたのが、この学園のシスターだったのよ。

だから、今の私がここにいられるのも、シスターのおかげだし、
お婆ちゃんがいてくれたからなんだと思う。

だから私は、大切なことを教えてくれた人の為にも。

多くの人の病気を治してあげたいんだー
ア「さぁさぁ‼︎私が唯一作れるまともな料理‼︎‼︎お婆ちゃん直伝アップルパイ!皆で冷める前に食べよ!」
シャ「この話聞いた後に食べれないわ‼︎」
ジ「私も多くの人に幸せを送りたい。」
ア「ほらほら!しんみりした空気は吹っ飛ばして‼︎皆でこれからも頑張ろうね‼︎」
シャ 、ジ「うん‼︎」






起こったことは巻き戻らないし、過ぎてしまった時間は消えてしまう。

村が焼かれた後、事を起こした町人達は皆国に捉えられたらしい。

あの村で起きたことは良いことじゃないし、失われたものの方が多い。

だけど、お婆ちゃんに救われたから、今の幸せな毎日がある。

お婆ちゃん、わたしもあの夏の大三角のように、周りの人達を明るくしていこうとする離れたくない大事な友達が。やっと出来たよ

約束は守れなかったけど、ちゃんとお婆ちゃんから教わったアップルパイ。皆で食べることが出来たよ。

最後まで、お婆ちゃんに世話焼かせっぱなしだったけど。

これからは私が、お婆ちゃんの代わりにたくさんの人の命を。

救えるように、頑張るね。