『他に好きなやついんだろ』
…図星だ。
結子は何も言わない。
『言っとくけど、俺けっこうショック受けてるから』
「…ごめんなさい」
謝るなよ。惨めじゃん。
結子は、ずっと親に干渉されっぱなしだった俺がはじめて自分の意志で手に入れたものだった。
高校2年の春、在校生代表の挨拶をするために出席した入学式。
そこで、結子を見つけた。
『最初から俺のことなんて本気じゃなかった?』
何言ってたんだ俺。まじでかっこ悪い。
「そんなことないよ…」
結子は今にも消えそうな声で答えた。
「あたし…あたしは…」
自分からきいたくせに、もうこれ以上なにもききたくなかった。
もう愛されないなら、言い訳なんてどうでもいい。
『家着いたぞ。降りろよ』
俺は冷たく言い放った。
「英知くん…ごめんねっ」
そういって結子は車から飛び出した。
ドアがあいて、外の冷気が一気に車内に流れる。
なんでまだこんなに寒いんだよ。
もう3月だろ?
…いや。
嫌でも結子と会ったときのことを思い出す春なんて
一生来なくていいかもしれない。