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第八話:望楽土
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私の名前は島本宗次郎(しまもとそうじろう)。

表向きは慶明大学医学部教授ということになっている。

もっとも私にとっては肩書きなど、どうでもよいのだが。

私は慶明大の敷地内に、自分の研究室を構えている。

ここで、森本の娘を預かって処置を施しているのだ。

森本家は昔から慶明大学に巨額の寄付を行なってきた。

だからこの施設は大学内にあるにもかかわらず、大学関係者は立ち入り禁止になっている。

私は父の代から森本が所属する望楽土(ほうらくど)に使えている。

父はバカな男だった。

望楽土(ほうらくど)に逆らったために死んでしまった。

警察は事故死だと言っていたが、そんなはずはない。

望楽土(ほうらくど)にとって事故に見せかけることなど簡単なことだ。

私たちの役目は虚(うつろ)を作り出すことだ。

森本の娘は最高だ。

今度こそ本当に虚(うつろ)になれるかもしれない。

私は今の立場を気に入っている。

何しろ合法、非合法、気にせず研究ができる。

誰にも何も許可を取る必要がない。

ただ、森本の指示に逆らいさえしなければよいのだ。



「先生、キヨノの調子はどうですか? 」

森本と話すときは、いつも暗がりの中だ。

この男はこの光で物が見えているのだろうか?

「はい、順調です。もう随分、あきらめてきているはずです」

虚は生きる気力を失い、すべてに絶望することで完成する。

「そうですか。それはいい」

森本がにっこり笑う気配だけが伝わってくる。

「体力や反射神経は? 」