「いったいな!そんなに強く叩かれたらそれこそあんぽんたんになっちゃうでしょうが!」
「安心なさい!今よりわるくなることなんてないから!」
ひどい、おれはあんぽんたんじゃないのに!と叫びを上げながら、凌はばりばりと作業をし始めた。涼鈴も笠をかぶりなおして、凌よりもはるかに手際よく青菜を刈り取っていく。
涼鈴は今年で十七になる、鷺凰院の童子のなかで最年長のねえさんだ。溌剌としていて、年少の子たちに慕われているが、小柄でくるくるとよく動き回っているせいか、よく食べる割にほそっこく、目の大きな童顔で、かわいらしいという形容が似合う。今は、顔こそ丸焼けにならないように笠をかぶっているが、上着はもとより、裙も膝上までたくしあげているのに、不思議と見る者に下品さを思わせない。かわりに、色気も想起させない。
「…あ、おった」
早くも集中力を切らした凌は、地面に再び青虫を発見し、さっきのと同じやつかなぁ、とつまみあげた。そして涼鈴に小突かれる。凌は涼鈴の三つ年下だが、よく言えばおおらか、悪く言えば極めて雑な性格だ。身体を動かすことが得意で、単純ないい奴である。
「もう、他事しないの!索師(せんせい)に怒られるよ!」
「ほーい」
何だかんだで仲は良い。


その時、下の畑から農具を持って登ってきていた穹が、急に畦道の向こうにある林の方を顧みた。