日が沈んで、森は真っ暗になった。
先生が持つランタンを頼りに、足元を見ながら進む。
会話もなく、ピチャピチャという足音と梟の鳴き声しか聞こえない。
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。」
「無理すんなよ?」
「はい。」
たまにこういう会話もあるが。
正直、滑らないように踏ん張りながら歩いた足は棒のようだ。
自然に息も上がってくる。
「お前、バレバレだぞ。」
当然、先生にも分かってしまう。
「おぶってやるよ」
「いや、もう少し…」
「子供のクセに遠慮してんじゃねーよ、生意気」
「な、生意気とは…?」
「お前みたいなやつだよ」
「?」
マントを脱いだ先生は、地面にしゃがみこむ。
「ほれっ、さっさと乗れ」
「…失礼します」
疲れがピークだったこともあり、あっさりと折れ、アーサー先生の世話になる。
お父さんより細くて頼りなげな背中だ。
レオさんやアーサー先生と比べてみると、お父さんは普通より筋肉質な身体らしい。
私ごとマントを羽織る。
「その剣重いな」と先生が呟いた。
「すいません…お父さんが肌身離さず持っていなさいって言ってたので」
「へぇ…」
会話が途切れると、温かさで眠気に襲われた。
ゆったりとした揺れも、眠気を誘う。
夢の国に片足を踏み入れた時だった。
「森、抜けたぞ。」
「…あ、はい。」
顔をあげると、月明かりで照らされた緩やかな斜面。
その頂上には大きな建物があった。
「あっ、あれが…?」
「ワブフォード魔術学園だ」
高い凸凹な壁の後ろに見えるトンガリ屋根の塔。
さらにその後ろには大きなドーム状の屋根も見える。
沢山の窓からはオレンジ色の光が漏れていた。
「でっかい…」
「この国最大の学校だからな。国王の城よりでかいらしいぞ。中はもっとすげーよ」
学校の迫力で眠気もぶっ飛ぶ。
どきどきと心臓が跳ね上がる。
期待と不安と…
いろんな感情が渦巻く。
岩場を登り、坂道を無言で歩く先生。
重りが増えて大変だろう。
すいません、すいません…と何度も謝って、許してもらえるかな。