「あーぁ、シーファちゃん行っちゃうのね」
ルージュさんが洗い物の手を止めてカウンターから出てきた。
頭を撫でて視線を合わせる。
「なんか子供が二人も出来たみたいで、楽しかったのに…」
瞳を揺らしながら笑顔を見せて冗談を言う。
「うち継げば学校行かなくていいのに」
「すいません。私は強くならなければいけないので…」
私はちゃんと笑顔になれているだろうか。
「ふふっ、そっか。
いってらっしゃい!また来てね」
「はい。行ってきます!」
「おしっ、行くぞ!」
マントを羽織った先生が下りてきた。
扉を開ける先生に続いて私とルージュさんが続いて外に出る。
「ルティナっ!」
アーサー先生がルティナと白馬を連れてきてくれた。
元気そうで安心だ。
手綱を受け取ってルティナを撫でる。
「村の出口までは牽いていくぞ」
「はいっ!行ってきますっ」
「いってらっしゃいっ!」
ルージュさんに見送られながら歩き出した。
レスル村を発って林を抜ける。
石畳で舗装された綺麗な街道。
ワブフォードへ向かう馬車のために整備されたらしい。
30分程で林から抜け出し、大きな池が見えた。
「ここからワブフォードの敷地だ。
普通なら生物学の教師が舟を出してメビウスの湖を渡るんだが…今回は迂回する」
家にあった鉱物図鑑で見たパライバトルマリンのような、蛍光色の水色の湖。
大きな宝石のようだ。
「綺麗…ですね」
「あぁ、ここには水を浄化して魅せる水獣が住んでいるからな」
「魅せる…?」
「まぁ生物学で習うよ。迂回路は綺麗じゃないからな、気を付けろよ。」
「はい。」
湖を眺めながらルティナを歩かせる。
土だった地面は進むごとに草が繁っていき、やがて森と化してきた。
森に入ると一気に暗くなる。
幹にぶら下がっている着生植物がたまに頬を掠める。
「苔が生えてるから滑るぞ」
「はい。」
右手には輝く湖が木々の間から見える。
そのせいか地面はジメジメとしていて、地面から木までびっしりと繁茂している。
「降りた方が良いかもな」
馬を止めて降りる。
びちゃっと泥が跳ねる。
行く手には倒木がいくつか重なっていた。
ルティナなら飛び越えられなくもないが、ここでは着地時に滑ってしまうかもしれない。
馬を牽き、木を潜り、木を登る。
ルティナもしっかりと通過してくれた。
一度降りてからは、ピチャピチャと音をたてながら歩いた。
