未だに浮遊感のある身体。
半ばルティナに寄り掛かるようにして、街に足を踏み入れた。
どの街にも門があるものだと思っていたが、そうでも無いらしい。
ランプが1つぶら下がった柱の横を通り抜ける。
建物は沢山あるのに、人気がない。
心寂しくなる街だ。
ワブフォード魔術学園の人が来てくれているはずなんだけど…
自分とルティナの足音だけが響く。
「おいっ」
「っ…!?」
誰っ!?
後ろから声がして、バッと振り返る。
黒いマントのフードを深々と被った人がいた。
声からして男だ。
レオさんより幾分か長身である。
「お前、シーファ・レイヴェンか?」
「…はい。」
「俺はアーサー・ハント。ワブフォード魔術学園魔法薬学担当教師研修生だ。」
バッとフードを取って顔を出す。
暗くてよく見えないが。
「あ、えっと…よろしくお願いします。」
「おぉ。ここは初めてか?」
「はい。」
「そうか。ここは繁盛期以外早じまいするから、明日買い物するぞ。
今日は泊まるからついてこい。」
「はい。」
ルティナを牽きながら、アーサー魔法薬学担当教師研修生という人について行く。
向かった先は玄関にランプが下げてある建物。
ドアの上には『オルテ』と書かれているプレートが掲げられている。
馬小屋が隣にあって、白馬が一頭、草を食んでいた。
「馬はここな。」
ルティナを白馬の隣に入れる。
乗馬具を外してあげた。
白馬は気にすることなくお食事を続ける。
ルティナに一時別れを告げてアーサー教師研修生について行く。
ドアを開けるとカランカランと音がした。
「あらアーサーちゃん、お帰り…あら?」
アーサー教師研修生の真後ろに立っていた私を、中年の女性が覗き込んできた。
イマナさんより年上に思える。
厚い化粧をしているが、品があって美しい。
「この子が新入生?可愛らしい子ね!」
「近付くなっ!」
アーサーさんが嫌そうな声でシッシッと女性を払う仕草をする。
「あらぁ~、失礼な研修生っ!
シーファちゃん…だっけ?こんな先生見習っちゃダメよ?」
「うるせぇ!」
ふいっと顔を背けるアーサー先生。
先生と女性は親子のようだ。
女性はしゃがんで私より姿勢を低くすると、にっこりと笑った。
「あたしはルージュ。『オルテ』の店主よ。」
「シーファです、よろしくお願いします…!」
