レヴァンヌ城の謁見の間にて、玉座に向かって5人の王子たちが横1列に並んでいる。
玉座には、王冠を被って豊かな髭を蓄えた貫禄のある中年男性が腰掛け、
年若い王子たちに親しみやすい笑顔を向けていた。

「本日は、遠い所から我が国へよくぞ参られた。
 国を挙げて歓迎しよう」

 レヴァンヌ国王その人である。
5人の王子たちの中で1番背の低い黒髪の少年が1歩前に出ると、丁寧な所作でお辞儀をした。

「こちらこそ。
 この度は、アイリス王女の生誕祝にお招き下さり、誠にありがとうございます」

 遠い東にある#琳__りん__# 王国から来た、【琳 #楊賢__ようげん__#】王子だ。

 すると、空色の髪をした青年が1歩前に出た。

「私からも御礼を。
 アイリス王女が16歳の誕生日をお迎えになること、心より嬉しく思います」

 北西にあるエルバロフ国から来た、【リュグド=エルバロフ】王子だ。
彼が柔らかな物腰で上半身を傾けてお辞儀すると、
綺麗に切り揃えられた空色の髪がさらりと音を立てて彼の顔半分を覆い隠した。
 
 二人の言葉を聞きながら、国王が満足そうな表情で頷く。

「ありがとう。
 このような立派な貴殿達を迎えることが出来て、我が娘のアイリスもさぞ喜ぶことだろう」

 見事な金色の髪を肩まで伸ばした背の高い青年が1歩前に出た。

「その姫君は、今どちらに?
 本日は、お顔を拝見させて頂けるのでは?」

 マフィス国から来た【オーレン=マフィス】王子だ。
まるで作り物のように美しく整った顔立ちをしている。

 国王は、その問いかけに、深刻そうな表情で顔を曇らせると、ううむ、と唸った。

「……実は、そのことで私の口から話さなければならない事があります」

 楊賢が眉をぴくりと動かすと、真っ先に口を開いた。

「……と、言いますと?」

 国王は、どうしたものかと視線を宙に泳がせると、深いため息を吐いた。

「昨夜、何者かが我が城へ侵入し……我が娘、アイリスを浚ってしまったのです」

 その衝撃的な事実を聞いた5人の王子たちは皆、驚きの声を上げる。
 燃えるような赤い髪をした一番体格の良い青年が一歩前に出て、声を上げた。

「浚われただとっ?!」

 ジグラード国の【アラン=ジグラード】王子だ。
髪と同じ色の瞳に怒りの炎が灯っている。

 それまでずっと黙っていた、オレンジ色の髪をした少年が一歩前に出ると、悲痛な叫び声を上げた。

「ひどいっ!
 一体、誰がそんなことを……?」

 レジェンス国の【リアード=レジェンス】王子だ。
まだ幼さの残る顔立ちをしてはいるが、この中で一番アイリスと歳が近い。

(本当は、またアイリスが自分から城を抜け出したんじゃろうが……
 そんなこと、国賓である王子たちには言えんからな)

 内心とは裏腹に、国王は、娘を誘拐された父親を必死で演じてみせた。
もし、婚約前に姫が逃げ出したと解れば、深刻な外交問題になる。
どうやら今のところ誰も疑ってはいないようだ。