商店街で必要最低限の準備を整えた私達は、町の出入り口である門の前へと来ていた。

「ねぇ、門番がいるのにどうやって出るつもりなの?」

「その事でしたら、私にお任せ下さい。
 姫は、私の話に合わせてくださるだけで結構ですから」

「う、うん……?」

ルカには、何か考えがあるのだろう。
私は、ルカに任せることにして、マント付きのフードを深く被り直すと、
なるべく目立たないようルカの後ろに隠れて付いて行くことにした。

門の前には、両側に2人の門番が立っていた。
ルカが堂々と門番に近づくと、それに気付いた門番が慌てて敬礼をする。

「……こ、これは、近衛隊長殿!
 このような所に何か御用でしょうか?」

利き手の拳を自分の胸に当てて、相手に敵意がないことを示すのが近衛兵流の敬礼方式だ。

「ああ、陛下の使いで急ぎの用なんだ。
 門を開けてくれないか」

「は、はい! ただいま!」

(えっ?!
 い、良いの? それで!)

ルカが近衛隊長だからだろうか。
門番は、一切疑うことなく門を開けてくれた。

「あと、馬の用意も頼む」

「馬ですね、解りました。
 一番上等な馬をお貸しいたしましょう。
 えーっと……1頭で宜しいですか?」

門番がルカの後ろに隠れていた私の方を見ながら尋ねた。
おそらく私は、馬に乗れないと思われたのだろう。

「いえ、2頭にしてください。
 私、これでも乗馬は得意なの」

「これは失礼を致しました!
 直ちに用意しますので、少々お待ち下さい」

しばらくして、連れてこられた馬に乗り、私達は見事、門の外へと出る事が出来た。

「ん~……風が気持ちいい。
 乗馬は、久しぶりだけど、やっぱり楽しいわね♪」

「姫っ!
 いくら楽しいからといって、無茶はされないでください。
 そんなに飛ばしていては、後が持ちませんよ」

「ルカったら、そんなこと言って。
 本当は、私に追いつけないんでしょう」

「違います。
 私は、ただ……」

「じゃあ、私を追い越せるか証明してみて。
 競争よ、ルカ!」

「あ、姫……!」

私は、馬の横腹を思い切り蹴ると、更に速度を上げて馬を走らせた。
後ろからルカも速度を上げて追い駆けてくる。
風と馬の足音が重なり合い、軽快なリズムを刻む。
景色が流れるように過ぎていった。

ルカは、私が全く手加減をしていない事に気付くと、すぐに速度を上げた。
ものの数秒もしない内に私とルカの距離はどんどん縮まっていく。
そして、とうとう私の前に立ちはだかったルカの馬によって、私は馬を止めた。

「あ~あ、追い越されちゃった」

「当たり前です。
 私に敵うとお思いですか」

肩で息をしている私に比べ、ルカは、息一つ乱れていない。

「……ふふ、でも楽しかった」

私が笑うのを見て、ルカが怪訝そうな顔をする。

「昔は、よくルカとこうして遊んでたじゃない」

「……そう言えば、そうでしたね」

いつからだろうか。
ルカとの間に距離が出来たのは。
歳を重ねるにつれて私は、家庭教師といる時間が増えた。
ルカも、その分、更に剣術の時間を増やしたようだった。

その内、少しずつ、私とルカが一緒にいる時間が減っていった。
ルカが剣技の腕を認められて近衛隊長に抜擢されてからは、
ルカも仕事が忙しくて、私が何か騒動を起こさない限り、顔を合わす事さえなかった。

私は、毎日のように城を抜け出したりしては、ルカを困らせていた。
私がいなくなれば、ルカは必ず私を捜して、見付けてくれる。
無意識の内にそうする事で、私は、ルカとの関わりを持ちたかったのかもしれない。

「私、ルカとこうしていられる事が楽しいの」

「姫……」

その時のルカは、何故か、ひどく傷ついたような目で私を見ていた。