閑静な住宅街に自転車が倒れる音が響く。
一瞬の出来事すぎて、何が起こったのか理解できない。
痛む身体を起こそうとすると、キャップを目深に被った男に、再び地面に押し付けられる。
「痛っ…やめて!!なっ…なんなの?!」
震える声を精一杯だす。
それと同時に足をばたつかせるがびくともしない。
わ…私、殺されるの…?!
「ははっ…震えてるねぇー。かわいー。
ねぇ、こんな時間に一人で出歩いちゃ危ないよぉ。」
ニヤニヤしながら男の顔が近づく。
なんだか息も荒い。
気持ちが悪い!!
私は横を向き、地面に顔がつこうがなんだろうが
とにかく男の顔から遠ざかる努力をする。
「ここじゃあ目立つからなぁ。
おい、立てよ。」
「っ…やだぁっ!!離してっ!!」
男は私の手と髪の毛を引っ張り
細い脇道に連れこもうとする。
痛さと恐怖で涙が溢れだす。
「っ誰かぁっ!!たすけ…」
バシンッ
右頬に痛みがはしる。
男が平手打ちをしてきたのだ。
「うるせぇ!!だまってろよぉっ!!」
コイツ狂ってる…目が普通じゃない。
ズルズルと引きずられるが、
黙ってついていくわけにはいかない。
殴られたって気にしてる場合じゃない…
誰かに気づいてもらえなかったら、
ほんとに死ぬかもしれない。
そう思ってこれ以上吸えないって位、
息を吸い込んで叫ぼうとした瞬間…
「あぁ…っ…」
涙がさらに溢れる。
だって…
坂の上に
頭の中に思い描いてた人が立ってたから…。

