「つまり、うっかりコード設定を間違えちゃってね、あたしんちの庭に出る予定が、あんたんちのバスタブに出ちゃったわけよ。」


手荒く俺の頭を流しながら、とんでもないミステイクを暴露するカプリ。


「…火星ってのは…」

「本当だよ、証明出来ないけど。」

「…何で?」

「じゃああんたさ、『これ火星のものだけど』って何か見せられて、納得出来んの?」


…たぶん、出来ない。

火星のことなんてよく知らないし、地球とどう違うのかもわからない。
科学者でも天文学者でもない俺は、例え何かの物質を突き付けられたとしても、理解なんて出来ないだろう。

それでも。

カプリがバスタブから出現したのは、紛れもない事実で。
俺が素っ裸を見られたのも、紛れもない事実だ。


「でさ、今更だけど。」

「はあ…何?」


肩を落として応えれば、シャワーのコックを捻ったカプリが、にこっと笑ってこう言った。


「あんた名前は?」


本当に今更な。


「武安はじめ、はじめでいいよ。」


カプリが何者かは取り敢えず置いておくとして。
タダ者かどうかは、あやしいと思う。

けど、

笑った顔は、ちょっと、可愛かった。