シトシトと降り続ける雨。

彼女はずっとそこにいた。

路地裏の誰も通らない

暗闇の中に。

彼女の瞳には何も映されない。

暗く 暗く 漆黒の闇。

「そんなところで何してるんだ」


その闇に一筋の光が差した気がした。

彼女は俯いていた顔を上げ

その光を見た。





神崎 流希 side


驚いた。

こんな路地裏で、雨が降っているのに

ボロボロの格好をした少女が
座っていたから。

何をしているのかと聞いてみると
少し顔を上げ、また俯いた。

よく見ると体が震えている。

「お前、家は?」

家出だろうか。
何にせよ、家族が心配するだろう。

そう思っていると

ドサッ

「あ?おい!大丈夫か!?」

少女は息を荒くしながら
倒れていた。








ーーー
ーー

愛南 流羽side



『ん…』

ここ…どこ?

目を開けると、そこは見知らぬ天井。

確か私は…

そうだ、意識を失う前に
誰か男の人が

「起きたか」

必死に何が起きて今この状況に至っているのかを考えていると
ドアの方から声がした。

『あ…あの…ここ、は…』

「俺の家だ。
お前が倒れたから連れてきた。」

ドアにもたれて立っているその男の人は
全てが透き通っていて
何だか冷たい感じがした。

「家族とか大丈夫か?
心配してるだろ、連絡するか?」

そう言い、男の人は
ズボンのポケットから携帯を取り出し
私に渡そうとする。

連絡…

だれに?

私には、家族なんてない。

『だ、大丈夫…です。
私、お父さんもお母さんもいなくて…
行くところがなくて迷ってたんです。』

そう言うと、男の人は
立ち止まり、黙って私を見た。

きっとその時間は数分なのだろうけど
私にはこの気まずい空気が
数十分にも感じた。

『あの…色々ありがとうございました。私、そろそろ帰ります』

沈黙に耐えられなくなった私は
ベッドから飛び降り、
部屋を出ようとした。

「帰る場所ないんだろ」

ふと、男の人が言った言葉。

帰る場所なんて、ない。
だけど、このまま見知らぬこの人に
迷惑かけるわけにもいかない。

『でも…』

「じゃあこの家に住め。」


…え?

この家に…住む?

『えっと…気持ちはありがたいんですけど、私なんかが』

「俺が決めた。お前は黙ってここで住めばいい。」

私の目を、真っ直ぐ見て

優しい言葉で包んでくれた。


『わかりました…ありがとうございます…。』