たくさんの車が行き交う交差点の信号を待っている上村光樹はボーッとしていた
会社で島浦課長に言われた言葉が頭の中をグルグル回っていた

「君はいつになったら成績が伸びるのかね?」
「ら、来月は必ず…」
「その言葉は聞き飽きた」
「え、えっと…」
その場を凌げる言葉を探していると
「もういいよ」
「え…?」
予想はしていたが、やっぱり怖かった
「君は今日限りでクビだ」
「はあ…」
「デスクの上の荷物、持って帰ってね」
「分かりました…」
トボトボと自分のデスクに向かっていると
嫌がらせのリーダー的存在の葉山薫が足を掛けてきた
「うわっ…」
勢いよく床に倒れた光樹を見て、クスクスとみんなが笑う
こんな会社とは今日でお別れだ
我慢我慢…
そう自分に言い聞かせてデスクに向かう
荷物を段ボールに詰めて、エレベーターへ向かう
すると、薫が
「はぁ、やっと汚らしい人が居なくなるわ。」
みんなが聞こえる声量でわざとらしく言い放った
光樹は気にも止めず『1F』を押したのだった

信号が青になって、一斉にサラリーマンや、専業主婦、女子高生等が横断歩道を早歩きで渡る
光樹も同じく渡り、薄暗い公園を抜け、人通りの少ない裏路地を通り自宅に向かう
この先の事を考えると、先が思いやられてくる
またバイト生活か…
田舎から上京して、まだ3年
都会を舐めていたのかもしれない
思ったよりも辛い現実だった
はぁ…
光樹は重い溜息をついた