「あかり、もうそろそろ出かけないと、遅れるわよ」
母親の声にあかりは花壇を見ていた顔を上げました。
縁側に置いたランドセルに一度目をやってからあかりは「はあい」と大きく返事をします。
あかりは朝の日課の水やりをしていたのです。
花壇にまいたのは、花の種―あかりが自分で選んだ花の種です。
「また明日お水をあげるからね、待っていてね」
あかりはそう言ってじょうろを片付け、ランドセルを背負いました。
ひざしが強いので帽子をかぶり、いってきます、と大きな声であいさつをしました。
あの日、一度だけ会った男の子にはそれからもう二度と会うことはありませんでした。でもそれから少しして、あかりの声は出るようになったのです。
あかりはなんとなく思いました、あの男の子のおかげかもしれない、と。
あかりは男の子のことを名前だけしか知らないけれど、花壇の花が咲いたら見せてあげたいと思い、花の種をまいたのです。
大きな花の咲く、花の種です。
あかりが出かけてしまうと、花壇は急に静かになりました。
しばらくして洗濯物を干そうと庭に出てきたお母さんは花壇にあるものを見つけました。
「あら、芽が出ているじゃない」
確かに二つ、花壇の土から一生懸命に身を乗り出すように芽を出していました。
生きようとする小さいけれど強い力をその二つの芽はもっていました。
その瞬間、二つの小さな小さなつむじ風が花壇の周りを吹きぬけたのです。
“あかりおねえちゃん、あの子をつれてきたよ”
“ぼくは、ずっと、一緒にいるからね、おねえちゃん”
生まれたばかりの二つのつむじ風は仲睦まじく、あかりの学校の方へと駆け抜けていきました。
Fin.
母親の声にあかりは花壇を見ていた顔を上げました。
縁側に置いたランドセルに一度目をやってからあかりは「はあい」と大きく返事をします。
あかりは朝の日課の水やりをしていたのです。
花壇にまいたのは、花の種―あかりが自分で選んだ花の種です。
「また明日お水をあげるからね、待っていてね」
あかりはそう言ってじょうろを片付け、ランドセルを背負いました。
ひざしが強いので帽子をかぶり、いってきます、と大きな声であいさつをしました。
あの日、一度だけ会った男の子にはそれからもう二度と会うことはありませんでした。でもそれから少しして、あかりの声は出るようになったのです。
あかりはなんとなく思いました、あの男の子のおかげかもしれない、と。
あかりは男の子のことを名前だけしか知らないけれど、花壇の花が咲いたら見せてあげたいと思い、花の種をまいたのです。
大きな花の咲く、花の種です。
あかりが出かけてしまうと、花壇は急に静かになりました。
しばらくして洗濯物を干そうと庭に出てきたお母さんは花壇にあるものを見つけました。
「あら、芽が出ているじゃない」
確かに二つ、花壇の土から一生懸命に身を乗り出すように芽を出していました。
生きようとする小さいけれど強い力をその二つの芽はもっていました。
その瞬間、二つの小さな小さなつむじ風が花壇の周りを吹きぬけたのです。
“あかりおねえちゃん、あの子をつれてきたよ”
“ぼくは、ずっと、一緒にいるからね、おねえちゃん”
生まれたばかりの二つのつむじ風は仲睦まじく、あかりの学校の方へと駆け抜けていきました。
Fin.

