高遠くんの首にそっと腕を回すと、ふわっと体が浮いた。
顔を上げると、高遠くんの頭の前に広がる今まで一度も見たことのない景色が広がっていた。
「うわぁ…っ!」
『フッ…すごいでしょ。』
「うんっ!すごいっ…!皆がちっちゃく見える…!」
あまり見たことのない人の後頭部。
人を見下げるなんてことはまずないから、目の前の景色に感嘆を零さずにはいられない。
『じゃ、行こっか。』
「うんっ、お願いします。」
おんぶされる前の恥ずかしさなんて、乗ってしまえば吹き飛んでしまって、高遠くんから直に伝わってくる温かさに、私の心もじんわりと温まる。
試合会場を出て、保健室へと続く廊下に入ると、人っ子一人もおらず静かだった。
さっきまで騒がしい場所にいたからか、静かな廊下でおんぶされながら、2人きりという状況に、急に心臓が高鳴りだす。
―――どうしよう、私のうるさすぎる鼓動…高遠くんに伝わってるかも。
そう思ったら恥ずかしくなって、顔を高遠くんの肩にうずめた。
うー…高遠くんにおんぶしてもらうなんて…すごくすごく嬉しい。
嬉しすぎて、幸せすぎて、もう溶けちゃいそうだ。

