俺たちの降りる駅は終点近いため、どんどんと電車内にいた人は少なっていた。
すっかり暗くなった窓の外を見つめていると、右横にふと温かくて重みのある何かが当たった。
「……っ」
そこには、俺の方に体を傾けて眠る小日向がいた。
疲れていたのか、途中からウトウトしていたけど。
1週間前も見た、小日向のあどけない寝顔。元々童顔だけど、寝ている時は特に子どもっぽさが増す。
今、この子は俺に全てを預けてるんだよな…。そう思うと嬉しくて嬉しくて仕方がない。
俺たちが降りる駅まであと3つ。もっとゆっくりと電車が走ってくれればいいのに、と思った。
このまま時が止まれば、なんてどうしたって叶うのことないことを考えてしまう。
今日、図書室で偶然見つけた、上段の本棚に置かれた小説を取ろうと、懸命に背伸びをして手を伸ばしていた小日向。
俺が代わりに取ってあげると、恥ずかしそうに頬を赤く染めてハニカむ彼女が愛しくて。
本が好きだと知って、読書をし始めた時の彼女のいつもより真剣な横顔とか、彼女が本を捲るページの音も、周りにたちこむ独特な本の匂いとか、柔らかく図書室に差し込む夕日の光とか、全てが俺の前でキラキラと輝いて見えていた。
下駄箱で、両手で鞄を持って、ソワソワしながら俺を待つ小日向を見て、抱きしめたい衝動をグッと堪えるのがどんなに辛かったか。
小日向のその真っ直ぐな瞳には、俺はどんなふうに映っているんだろう。
小日向を見つけるだけで俺の胸が熱くなるのを、この眠り姫はきっと想像もしてないんだろうな。
「……罪なヤツ。」
すやすやと眠る小日向を見下ろしながらボソッと零れた俺の小さすぎる声は、電車の走行音に掻き消された。

