「……ありがとう。」


貸し出しの手続きを終えて、高遠くんから本を受け取る。

早く読みたい。ずっと待っていただけに、この小説の内容に自然と期待が高まっていく。


『…小日向、もう帰る?』

「え?あ……。」


カウンター越しに、高遠くんと目が合う。

私は立っているけど、高遠くんは椅子に座っているから、自然と私を見つめる高遠くんは上目遣い。

いつもとは違う角度で見る、高遠くんの顔。

ちょっと愁いを帯びた高遠くんの瞳を見て、もうちょっと一緒にいたいと思ってしまった。


「……ちょっと読んでから、帰ろうかな。」

『!…そっか。』


私の言葉に、力なくヘニャッと笑う高遠くんの笑顔に、心が躍る。

そんな嬉しそうな笑顔、反則だ。…だって、もしかしたら高遠くんも私と同じこと思ってくれてたんじゃないかな、とか何の根拠もないどうしようもないことを考えて、期待してしまう。

私の気持ちも知らないで、こうやって私を振り回す高遠くんは、罪な人だと思った。


「うん。じゃ、私…あっちで読むから。」


おう、という高遠くんの返事を聞いて、いつも私が読書をしている定位置の席に向かって、借りたばかりの本を開いた。