「俺…島津のことをそんな風に見れない。たとえ雛乃と付き合ってなかったとしても、島津とは付き合えなかったと思う。……悪い。」
不思議なものだ。
雛乃が相手だと、手を繋ぎたいとか、抱きしめたいとか、キスしたいとか、照れた顔をもっと見たいとか、色んな欲望が次々とあふれてくるのに、島津相手だと…そんな風にはとうてい思えないんだから。
『……そっかぁ…。うん、そうだよね。』
「…ごめん。」
『いいのっ…。これで吹っ切れるから。私が高遠にフラれたのは、あの子のせいじゃないって思うことができる。』
顔を俯かせて俺に涙を見せないようにしているのが、震えている肩と声で分かってしまう。
でも…島津の涙を見ても、俺は何も言えなかった。
俺がこの手で涙を拭いたいと思うのは…、彼女だけだから。
震える彼女を抱きしめるのは俺だけだと決めているから。
『…いつか、アンタに私をフッたこと後悔させてあげる。それくらいにイイ女になってみせるから。』
「ははっ…島津ならなれそうだな。」
涙を堪えて俺に精一杯の笑顔を向ける島津を見て、将来…島津はもっと人を魅了する女になるんだろうなと思った。
でも…残念ながら、俺が島津をフッたことを後悔することは決してないだろう。
俺は雛乃という最高の彼女がいるから。
俺が後悔するのは、きっと…彼女の手を離してしまったその時だけだ。

