『――ただいま~』
生チョコを冷蔵庫に入れて固めていると、タイミングを見計らったかのようにお兄ちゃんが帰ってきた。
「おかえり~。」
『お邪魔してま~す!』
『あっ、華ちゃんやん!久しぶりやんな~……ってか、すんごい甘い匂いがするっちゃけど…チョコ?』
リビングにやってきたお兄ちゃんは華ちゃんに笑顔を向けた後、部屋に立ちこんだチョコの匂いに反応してクンクンと匂いを嗅いでいる。
そうか、明日はバレンタインやったな、と苦笑いをこぼす。
『お兄さんは明日チョコもらう予定とかあるんですか?』
『え~?今年も雛乃しかもらえないっちゃないかなぁ~。』
「何言っとーと?毎年抱えきれないほどのチョコ抱えて帰ってくるやん。」
白々しく話を謙遜するお兄ちゃんに本当のことを言うと、華ちゃんはマジで!?と驚きを隠せない様子。
そんな華ちゃんを見て、お兄ちゃんはあ、そうだっけ?と愛想のよい笑顔を振りまいた。
中性的な顔をしていて人当たりが良いお兄ちゃんが毎年毎年1日じゃ食べれらないほどのチョコをもらって帰ってくるのが、ここ毎年のバレンタインデーの恒例となりつつある。
甘いものが得意じゃないお兄ちゃんはあまり食べないから、必然的に私とお母さんがもらったチョコを食べているんだけど…。
食べられないのだからもらってこないでというのが私とお母さんの本音だけど、彼女たちの気持ちを無下にはできないと言う優柔不断なお兄ちゃんはそれを聞き入れてくれたことはない。

