『逃げられる前にしっかり手ぇ握っとけって言ったよな?』
「……。」
覚えてる。
食堂で、えらく真剣な表情を浮かべた久松が俺に言った言葉。
あの時よりも、今の方が久松の言葉が俺の心に深く刺さった。
『お前…小日向に誤解されるようなことしたんじゃねーの?』
「誤解?……誤解ってなんだよ?」
『まぁ…、あらかた想像できるだろ。』
当たり前のように言う久松に、俺は苛立ちを募らせる。
それが分かんねーから聞いてるんだろーが…!
いつの日か、"千尋くんって鈍感だよね"と苦笑いを浮かべた雛乃に言われたことを思い出した。
『あーもう、お前って面倒くせー。』
うるさい、早く教えろ、と目で訴えると、久松ははぁーとため息をついて持っていた箸をおいた。
『小日向が誤解してお前を避ける理由なんて、1つしかないだろ。』
「なんだよ?」
『浮気だよ。うーわーき!』
「…は?」
うわき…?浮気って…あの浮気か!?

