私が、もう一度あのつくねを頼んだ男の顔をじっくり見たのは、初めて男と話をした日から一カ月ほど経った、ちょうど七夕の夜だった。
その日、つくね男はひとりで店にやって来て、カウンターに座ってメニューにざっと目を通すと、ふいに右手を上げた。そして近づく私に気がつくと、
「この間は丁寧な説明をどうもありがとう。」
と、よく響く低い声で言ってから、あの大きな口に、綺麗に並んだ白い歯を覗かせて、柔らかい笑みを見せた。
「えぇと…キムチの盛り合わせと、つくねの一本焼きと、この野菜たっぷり雑炊っていうやつ。あと、オレンジジュースをください。」
「えっ?飲まないんですか?」
「飲めないんですよ。この間も運転手として来たようなもんだから。こういう雰囲気のお店や、飲み会っていう場は好きなんだけどな。どうもお酒自体が体に合わないらしくて。」
「そうなんですか。」
焼酎と一緒に摘むつくねが最高なのにな。
私はなんとなく残念だと思った。
店の掛け時計は、もう十時を指していた。
私は焼きあがったばかりで熱々の、当店の自慢料理、つくねの一本焼きをおぼんに乗せて、つくね男の席へと向かった。
「これこれ、これが食べたくって。このたまごをつけて食べるっていうのに、はまっちゃったんですよ。仕事に行ってる間も、ずっと食べたかったんだ。」
つくね男は、つくねの乗ったお皿を受け取ると、ぱっと顔を輝かせてそう言った。
なんだか犬みたいだった。わんわん、わんわん、はやく食べたいよう、わんわん。
素直で忠実で純粋な欲望。
「これ美味しいですよね。私も店のメニューの中で一番好きだな。」
「オレンジジュースと頂くつくねっていうのもまたオツでしょ。」
つくね男はそう言うと、オレンジジュースの入ったグラスを、つくねのお皿にかちんと当てた。
その時、つくねの皿を挟んで微笑む私とつくね男の前に、スキンヘッドで体格のいい強面の男が、腕まくりをしながらどすどすと近づいてきた。
眉間に皺を寄せて近づいてくるその強面の男に、つくね男は明らかに怯んでいたと思う。
その日、つくね男はひとりで店にやって来て、カウンターに座ってメニューにざっと目を通すと、ふいに右手を上げた。そして近づく私に気がつくと、
「この間は丁寧な説明をどうもありがとう。」
と、よく響く低い声で言ってから、あの大きな口に、綺麗に並んだ白い歯を覗かせて、柔らかい笑みを見せた。
「えぇと…キムチの盛り合わせと、つくねの一本焼きと、この野菜たっぷり雑炊っていうやつ。あと、オレンジジュースをください。」
「えっ?飲まないんですか?」
「飲めないんですよ。この間も運転手として来たようなもんだから。こういう雰囲気のお店や、飲み会っていう場は好きなんだけどな。どうもお酒自体が体に合わないらしくて。」
「そうなんですか。」
焼酎と一緒に摘むつくねが最高なのにな。
私はなんとなく残念だと思った。
店の掛け時計は、もう十時を指していた。
私は焼きあがったばかりで熱々の、当店の自慢料理、つくねの一本焼きをおぼんに乗せて、つくね男の席へと向かった。
「これこれ、これが食べたくって。このたまごをつけて食べるっていうのに、はまっちゃったんですよ。仕事に行ってる間も、ずっと食べたかったんだ。」
つくね男は、つくねの乗ったお皿を受け取ると、ぱっと顔を輝かせてそう言った。
なんだか犬みたいだった。わんわん、わんわん、はやく食べたいよう、わんわん。
素直で忠実で純粋な欲望。
「これ美味しいですよね。私も店のメニューの中で一番好きだな。」
「オレンジジュースと頂くつくねっていうのもまたオツでしょ。」
つくね男はそう言うと、オレンジジュースの入ったグラスを、つくねのお皿にかちんと当てた。
その時、つくねの皿を挟んで微笑む私とつくね男の前に、スキンヘッドで体格のいい強面の男が、腕まくりをしながらどすどすと近づいてきた。
眉間に皺を寄せて近づいてくるその強面の男に、つくね男は明らかに怯んでいたと思う。
