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「結婚しているんです。」

男の人に年を聞かれた後には、いつもそうやって嘘をついていた。
そうすれば彼等はそれ以上踏み込んでくることが無いので、仕事中の絡みを断ち切るのには、一番手っ取り早いのだ。

私がそう言うと、彼等は一度驚いてみせてから、大抵「子供は?」と聞いてくる。
「いませんよ」と微笑んで私が答える。
はい、そこで会話は終了~。そこから他の話題を振るわけでもなく、彼等は別のターゲットをみつけようと、上手な間合いをとりながら去っていく。
ナンパ目的の男なんて、みんなそんなもんだ。

けれども、現は違った。
現と初めて話をしたあの夜、
「へぇ~だから大人びて見えるんだ。その年で、もう別の人間の人生も背負いこんでいるなんてすごいよ。尊敬するな。」

急に興味が湧いたとでもいうように、彼は目を輝かせてそう言った。
にこやかに話をしていても、結婚をしていると言った瞬間に興味が失せたとでも言わんばかりに、手のひらを返して真顔に戻ってしまった他の男たちとは違って、この人は私のことを女としてではなくて、ひとりの人間として見てくれているんだと感じた。




彼の名は、向田 現。
年は二十七歳。
冷静な判断や物の捉え方に、やっぱり大人なんだなぁと感心することもあれば、目の前の出来事に没頭してしまったり、喜怒哀楽が分かりやすかったりと、五つも年が離れているとは思えないほど、更には年下のように思える時だってあった。
屈託の無い笑顔が印象的だった。

いつも真っ直ぐに前を向いて、何より自分の仕事に誇りを持っていた。

現のその不思議な魅力に、私はこれから、どんどん引き寄せられていくことなど、この時は知りもしなかった。