あの日、僕等は罪を穴に埋めた─secret summer─

小学生の頃は、それこそ上手く猫を被ってやり過ごしていた。

賢くて優秀な息子を演じられていたと思う。理想の息子で在れたと思う。苦痛になったのは、自我を強く持ち始めた思春期の半ば。

外面の良い親父の家で見せる裏の顔。

そのギャップがどうしても許せなくなったのだ。また、猫を被っている自分が親父に似ているのではないかと思えてしまい、吐き気がした。だからこそありのままの自分でいることを選んだのだけど。

どうやら親父にとって俺の豹変は火に油だったらしい。


「今日は家へ戻って来ても入れはしないからな!そのつもりで出て行け!」
「望むところだよ!こんなクソみたいな家……虫唾が走る!」


襖を派手に蹴破り、ドカドカと大きな足音を立てて無駄に長い廊下を進む。背中に、聞くに堪えない罵声を浴びながら。

ほんと、イカレテル。


「千秋!」


自分の乱暴な足音と、軽く淑やかな足音が重なり合い、手首を掴まれた時点でそっと静かに目を閉じた。呼吸と怒りを整える為に。


「……なに、母さん」
「ちゃんと帰って来るのよ?千秋の帰る場所は誰がなんと言おうとここなんだから。父さんなんか放っておきなさい。母さんがちゃーんと話つけておくから!ねっ?」