恥も外聞もかなぐり捨てて懇願した。

喉が千切れそうになるまで叫んだ。無様でも滑稽でも構わない。俺がピエロになることでどうにかなるのなら。喜んで引き受けよう。全部、俺が貰っていくから。それなのに、どうして、なんで。


(届かない…)


聖は少しだけ目を見開いて吃驚し、あとは柔く微笑(わら)うだけ。


「最期まで一緒にって幸次とも約束したのにな。ごめん、千秋」


強く握り返した指の力が解かれていく。


「さよなら」


どんなに手を伸ばしても、どんなに叫んでも、届かない。

あんなに意気込んで来たのに。覚悟を決めて来たのに。結局なにも出来なかった。なにも変えることが出来なかった。


「………ひじ、り、」


同じ目線だったはずの二人の距離が、離れて分つ道。

天地が逆さまになる世界で、確かに見えた美菜の頬を伝うもの。その意味は。なあ、だから、どうして。どうして。


「っ、聖いい゙いぃぃい!」


薄れゆく意識のなか、致命傷のように脳裏に刻まれた映像はひとつ。聖の首に巻き付く白く細い腕と、笑顔。そして、蒼一色。