ぞわぞわと鳥肌が立つ。

嘘だ、そんな、このタイミングであり得ないだろ。きっと、また、幻聴。恐怖心からのマボロシ。俺が、俺だけに聞こえる、


「……美菜」


早くも逃げ腰だった俺をその場にいとも簡単に縫い付けた聖の声。ぐらりと歪む視界。耳の奥で鳴り響く警鐘。鮮やかで華やかな夏の色彩は消え、白黒に見える世界の中心に――彼女が居た。


「み、美菜、っ!……そんな、嘘だろ…」


ああ、幸次までも。

遂に見つけてしまった。対岸で嘲笑(わら)う美菜を、白い影を。


「《かんたんにゆるされるだなんておもわないで。わたしがあじわったきょうふはこんなものじゃなかったよ?》」


灼けたアスファルトの上に浮かぶ逃げ水のように、不確かな存在となった彼女の言葉。そうだよな、そうに決まっている。

やっぱり逃げられやしない。


「《つぎはだれかなあ?》」