少しの静寂のあと、首筋から伝わってきていた人の温もりは離れていった。それでも首に縄を掛けられたままのような感覚は消えない。〝命〟の主導権はまだあちら側にあると主張するように。


「……聖?」


もう一度、そうであって欲しくはないと願って呼んだ名前。

けれど、どうしたって返ってくるのは。


「なに、千秋」


優しい低音、優しい旋律。

喉の奥から込み上げてくるものを必死で飲み込んで、眉間に力を入れた。そうでもしないと足元から崩れてバラバラになってしまいそうだった。痛い、どこもかしこも。痛い、なにもかもが。


「失敗したな」
「っ、」
「早紀はもう少し馬鹿だと思っていたけど。まあ、仕方ないか」
「……ひじ、り」


ここで振り返ることは〝終わり(こたえ)〟を意味しそうで。怖くて、怖くて、堪らないけど、でも。向き合うって決めたのは、俺だから。


「聖、美菜」


力いっぱい閉じていた眸は、霞んで、濡れて、全然クリアじゃないのに。そこだけを()()いたみたいに、鮮明に、そこだけ、確かに捉えた。間違いなく彼と彼女を。冷めた微笑(えみ)を浮かべる、友を。