一緒に居たのに。

俺が、俺しか救えなかったのに。また、友を見殺しにした。綾も、早紀も、幸次も、聖も、みんな、みんな――。


「刑事さん、もう少し……もう少しだけ、時間をあげてやって下さい。千秋はうちに連れて帰りますから。また、訪ねて来て下さいませんか?どこへも行かせはしませんから」


涙が止まらない。もう、止めようとも思わない。

声こそ上げはしなかったものの、幼子(おさなご)のように、人目も憚らずにぼろぼろと泣き出す俺に、母さんがそっと頬を撫でてくる。


「帰ろう?千秋」


目尻に皺が増えた。髪も白くなった。母さん、老けたね。

過去と現在の記憶が混濁した今日、この日。俺は自分の生まれ育った千社村に戻って来てはじめて実家へと足を向けることになった。本当に、全てが夢だったら良かったのに。あの日の俺と、今の俺。

変わらない世界で、世界だったとして、俺は。


「……ただいま」


玄関に入ってすぐに百合の花が目に入る。生花を飾るのは母さんの趣味だった。変わらない、あの頃のままの古く懐かしい我が家の匂いは先程まで見ていた遠い日の夢を蘇らせ、再び涙を溢れさせた。