「正尚さんは、非道いヒトね」
薄い扉一枚。
しかも、三分の一ほど既に開いているその扉にプライバシーもへったくれもない。小さな照明すらついていない無防備な部屋からは、荒い息遣いと粘膜同士が擦れ合う耳障りでしかない粘ついた水音がただただ響き渡り、俺の鼓膜を虚しく揺らした。
〝マサナオサン〟
なんだよ、何なんだよ。そんなの、親父じゃねえか。
月明かりに照らされて伸びる二つの影は、ぴったりと重なり合って離れようとしない。目に焼き付く、肌色と、気色の悪い動き。
親の性行為なんて、しかも、不倫現場だなんて。
最悪でしかなかった。
いとも簡単に穢された心は、どんなに大人ぶっていても自分はまだほんの子供だったのだと思い知らされ、涙がでる。
(裏切られた…!)
許さない、許せない、絶対に。グラグラと父親への憎悪が煮え滾り、溢れ、全てをぶち壊してやろうと歯を食い縛った――瞬間。



